【調査を「読み解く」試み②】新聞記事の内容のみが情報源では?実際の調査レポートを紐解くと・・
◆このコラムの要約◆
ギャラップ社のエンゲージメント調査の
結果の解釈が
「新聞の記事」として取り上げられた内容に
引っ張られすぎているように思える
ギャラップ社がレポートの中で
強調しているのは
「世界中のエンゲージメントレベルが低い」
ことに対する問題提起ではないか?
◆サーベイフィードバックの視点◆
インパクトのある数値で表現された
結果に対して過剰に反応してしまうと
本質を見失う危険がある
■2017年掲載の日本経済新聞の記事
ギャラップ社のエンゲージメント調査の結果が一般に知れ渡るきっかけとなったのは、2017年5月26日付の日本経済新聞の記事の存在が大きいと考えられます。
「エンゲージメント」について述べられているHR系の書籍やWEB記事の多くで、根拠となる引用元として紹介されていて、今でも(2021年5月末時点)「ギャラップ エンゲージメント調査」と検索するとその日経新聞の記事の原文を確認することができます。
「熱意ある社員」6%のみ
日本132位、米ギャラップ調査」https://www.nikkei.com/article/
DGXLZO16873820W7A520C1TJ1000/
そこでは、アメリカでは働く人のエンゲージメントレベルが高い一方、日本でのエンゲージメントレベルは低かったという結果、具体的には
1) 日本では「熱意あふれる社員」の割合が6%しかなく、アメリカの32%と比べ大幅に低いこと
2) 日本は139ヵ国中132位であること
3) 日本では「周囲に不満をまき散らしている無気力な社員」の割合が24%、「やる気のない社員」が70%に達していること
4) 記者によるギャラップ社CEOへのインタビューの内容
が記載されています。
そして、この記事を目にした人が、これを日本の実情を映し出しているデータとして受け止め、
(海外比較からもわかるとおり、
日本のエンゲージメントレベルの低さには問題がある)
という論調の根拠として引用しながら発信しているように見受けられます。
■これらの引用から抱く印象は?
実際、この日経新聞の記事、およびこの記事の引用を含んだ書籍やコラムなどの文章を通じて、
(アメリカのエンゲージメントレベルが高い一方、
日本のエンゲージメントレベルは大幅に低い)
という理解につながり、さらには
(他の国々と比べると日本のエンゲージメントレベルは
特に低い)
という印象まで抱く結果となった人も多いのではないでしょうか。
もちろん、上記の日経新聞の記事自体にはギャラップ社のエンゲージメント調査に基づく日本の結果内容についての誤りは存在しません。
しかしながら、ギャラップ社の調査レポートがグローバル全体の結果という文脈にて報告されていることを踏まえて読み解くと、日本の結果の解釈としては、
調査レポートの中の部分的要素が誇張されている
という感覚を覚えます。
■「State of the Global Workplace」の内容
ギャラップ社の調査結果は、ギャラップ社の「State of the Global Workplace」(英語版)という調査レポートに記載されています(日本の結果の詳細は138~144ページに記載)。その英語版レポートはWEB上で「State of the Global Workplace」と検索することでギャラップ社のホームページよりダウンロードすることができます。
https://www.gallup.com/workplace/257552/
state-global-workplace-2017.aspx
一方、日本語版のレポートは発行されていないようでWEB上では発見することができませんでした。
調査レポートは200ページを超える英文のため全ての完全な理解はできていませんが、ざっと目を通すだけでも、各地域・国の結果が網羅的に公表されていることがわかります。
■ギャラップ社が強調していること
ギャラップ社の調査レポート冒頭の表紙には
85% of employees worldwide are not engaged or are actively disengaged in their job. Discover what organizations everywhere can do about it.
世界の85%の従業員が自分たちの仕事にエンゲージしていない。組織としてできる対策は何か、それらを見出していかなければならない。(※日本語はOD Zukanによる意訳)
という文章が最初の一文として記載されています。
端的に言うと、ギャラップ社が各地域・国の結果を網羅的に捉えた上で調査レポートの中で強調していることは、
『世界全体』のエンゲージメントレベルが低い
さらには経年変化を見ても数値があまり改善していない
という問題提起と言えます。
もちろん上記を指摘してみたものの、ギャラップ社のエンゲージメント調査の結果として
日本の働く人のエンゲージメントレベルは低い
という結果の事実は変わりません。
それでも、他の国々の結果やギャラップ社のエンゲージメント調査の特徴などを実際に確認してみることで
これまでに抱いていた
ギャラップ社のエンゲージメント調査の
結果の理解に対し、新たな視点が加わる
ことは体感してもらえると考え、後に続くコラムではさらにそのポイントを整理してみます。